ミニマリスト的住まい方。地域社会圏主義の7つの基本的特徴と2つの事例
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地域社会圏主義とは
基礎知識
建築家の山本理顕氏が提唱する、集合住宅の新たなモデルのこと。数百人規模で一つの「地域社会圏」を構成する。専有部分を小さく共有部分を大きくし、水回りを共有することで、住宅の効率化をはかる考え方。
出典:RIKEN YAMAMOTO & FIELD SHOP BLOG
一つ一つの住宅は「イエ」と呼ばれ、「イエ」は「見世(みせ)」と「寝間」で構成される。「見世」は外に向かってガラス張りで、人と交流することを意図した空間。カフェや古着屋、雑貨屋、お直し屋といったお店を構える場所というイメージだが、おばあさんが日向ぼっこしていてもいい。「寝間」はプライバシーを維持するための空間。寝室や書斎が主な用途。
「地域社会圏」には自給自足の考え方が浸透し、コンビニやカフェのみならず、保育、介護、学習補助から交通やエネルギーにいたるまで、集合住宅全体で一つのコミュニティ(社会圏)として成り立つ。
理念やメリット
つながりが崩壊しつつある現代日本社会で、新たにゆるやかなつながりを生み出すことが期待される。
「一住宅=一家族」のシステムが崩壊するなか、共有部分の拡大というアイデアが多くの問題を一挙に解決することが期待される。
また、最近流行の、持たないことを良しとする「ミニマリスト」的考え方ともとてもよく適合する。これからの日本の住まい方の一つの方向性として注目が高まっていくはず。
地域社会圏主義の特徴
以下、引用部分はこの本からの引用。
著:山本理顕
専有部分のミニマル化
地域社会圏とこれまでのマンションの違いは専有と共用のバランスを変更しているところである。地域社会圏では従来のようにユニットの内部に風呂、トイレ、キッチンの設備がない。居住者はできるかぎり専有する物や設備を少なくし、小さな専有部と大きな共有部を使いこなす身軽な生活をする。そのライフスタイルをバックアップするために共用部にはコモン収納が配置され、身近な生活必需品以外をここに収納する。
水回りと収納を共用にすることで、身軽な暮らしが実現する。
ゆるやかなつながりの形成
- 5-7人のベーシックグループで、サニタリー・水回りを共有する。
- 複数のベーシックグループが連続的につながっている。
- さまざまな見世が屋外広場に面していて、交流が生まれる。
- 屋内広場では、スポーツやイベントが行われている。
地域社会圏では、こうした人のつながりが自然とできる仕組みになっている。
低めの家賃
形態 | 地域社会圏 | ワンルームマンション | |
---|---|---|---|
専有部分 | 1キューブ | 2キューブ | 1K |
専有面積 | 5.8㎡ | 11.6㎡ | 25.0㎡ |
家賃 | 34400円 | 52800円 | 65000円 |
これは家賃の設定モデル。「キューブ」というのは「寝間」のこと。
これで共有部分込みの値段なので、水回りが共有であることが我慢できるならワンルームマンションを借りるよりも安くあがることが分かる。
ちなみに家賃内訳は、1キューブの容積が15立法メートルとすると、
専有部使用料金が12000円、共用部使用料金が16000円、管理費が6400円。これらの数字は当然、周辺家賃相場を反映して物件によって変わる。
地域内ワーク
住民は「見世」を利用して、物販や飲食に限らずさまざまなサービスを提供することができる。
見世でできる仕事例
- パブ
- パソコン制作教室
- 犬の世話
- 麻雀BAR
- 洋服レンタル「おしゃれ貸します」
広場等の共用スペースでできる仕事例
- 無農薬野菜の栽培
- 太極拳教室
地域社会圏に住む人は、より気軽に、柔軟に、小さな単位で仕事を始めることができる。
生活コンビニ
生活相談、介護、託児、診察といった地域の助け合いシステムの中枢を担う場所を「生活コンビニ」と呼ぶ。住人のうちの希望者が時給800円で週に半日、生活サポーターとして働き、地域社会圏の生活サポートを行う。
地域社会圏は全体で500人規模が目安。うち140人が希望すると、一週間7日を半日づつに区切った14コマに割り振ることで常に10人の生活サポーターが常駐している計算になる。※
生活コンビニには、生活サポーターだけでなく、本職の介護マネージャー、保育マネージャー等が雇われている。
※時給800円で住人の3割近い人が仕事を求めるとは思えず、またこんなに効率よくシフトを割り振ることはほぼ不可能なので、この「生活コンビニ」という仕組みは、個人的には現実的ではないように思う。
コミュニティビークル
SUZUKI 第42回 東京モーターショー 2011「Q-Concept」
地域社会圏は自然の丘のように上層までスロープが連続していて、上の方にもお店がある。地域社会圏内を住人がくまなく移動できるよう、コミュニティビークルを採用する。
居住地域内の交通にはコミュニティビークル(CV)を採用する。CVは自転車や電動椅子よりも積載能力が高く、幅員の狭い道や建物のなかにも進入できる。また、地域内にはCV専用道とCVバッテリーを交換できるCVステーションのようなインフラを整備する。
最高時速20kmのCVの採用により、地域社会圏内の移動が簡単になり(=地域社会圏が『狭く』なり)、住人同士の交流がより活発化するだろう。
省エネなのに快適
地域社会圏には、画像や図を見れば分かるように、建物の構造内に半屋外の部分が数多くある。 また、緑の多い設計になっている。このようにして、全体的に心地良い風が吹き抜ける快適な住環境の形成を目指している。
また、屋上の太陽光発電にくわえ、ガスによる火力発電も地域社会圏単位で行うことにより、廃熱や送電ロスによる電気のムダをなくし、省エネ化を目指す。※
※確かに送電ロス等はなくなるが、その分、地域社会圏での発電に用いるガスの輸送にかかるエネルギー消費がある。このプラスマイナスを加味した上で総合的なエネルギー効率はどうなっているか、計算して提示してもらいたい。
地域社会圏主義の事例
パンギョ・ハウジング
出典:Riken Yamamoto Official web
私たちは大きく二つの提案をした。
一つは建築をクラスター状に配置する事である。敷地内には9つのクラスターがあり、各クラスターは3又は4階建ての住戸が9〜13戸集まってできている。
もう一つは各クラスターの2階レベルにパブリックな「コミューナルデッキ」をつくり、「しきい」(ハングルでは「マル」)と呼ばれる透明な空間で各住戸と結んだ事である。「しきい」は大きな玄関のような空間で、応接間・ホームオフィス・アトリエなど様々な用途に使える、周辺環境と一体化した空間である。
ソウル江南ハウジング
出典:Riken Yamamoto Official web
この計画は韓国ソウルの南、江南区に建つ低所得者層向けの集合住宅の計画である。
(中略)
”common field”には”common kitchen”や”small library”が散らばり、クラスター内部の住人達が共用で使える。広場はsports fieldやplay groundとなる。さらに、各クラスターは、保育施設や老人施設、共同作業室、図書室といったコミュニティー施設を擁し、これらの施設はクラスター内のみならず街区全体のコミュニティーの中心として機能する。
今回の我々の提案は”一住宅=一家族”システムに変わる新しい住宅である。地域にひらかれ、「地域社会圏」に基づいた住宅の提案である。
課題
社会学者の上野千鶴子さんは、山本理顕氏との対談の中で、次のように地域社会圏主義の課題を述べている。太字は引用者が付しました。
保田窪団地※も含め、公設の賃貸住宅の入居者の入居動機データを見ると、ミもフタもないことが分かります。彼らには価格訴求と立地だけが重要なのです。家賃と駅から何分かだけで住居を決めている。それがどんな建築かなんてことはまったく意に介さない。入ってみたらとんでもない建物だったというのが、保田窪団地の入居者の実感でした。でも意外とよかったという人もいないわけではありません(笑)。基本的に低コスト低家賃の公共住宅は、次に住み替えるまでの通過点なので、保田窪のよさを評価した住民も、家族や収入が増えると転出していきます。山本さんの「地域社会圏」が価格訴求と立地の他に、付加価値を評価する住民が選んで入居してくるかどうかが重要だと思います。
※保田窪団地は、山本理顕氏が設計したかなり芸術性の高い団地。こんな団地でさえ、実際の住民の居住理由は大半が価格と立地だったというのだ。
出典:Riken Yamamoto Official web
上野千鶴子さんの課題意識をもう一つ紹介する。
ただ私はやはりコミュニティや地域という言葉に対して、とても抵抗があるんです。地域社会圏というのはまさに地域と空間がくっついたものですが、空間の近接性が共同性をつくるという建築家の信念にはどうしてもついていけない(笑)。社会学者の目から見ると、そういうふうには共同性はできあがっていません。保田窪団地で調査しても、同じ階、同じ階段室で共同性なんてできないことが分かった。むしろ、有効なのはライフスタイルや価値観の共同性で、選択性が高い。
「地域社会圏」では、他人同士で水回りを共有したりすることで、ある意味強引に人と人との関係性を創りだそうという試みがなされている。
社会学者の上野千鶴子さんからみると、人間関係というのは空間的に近いとか生活空間が共同であるということからは生まれず、ライフスタイルや価値観の共同性が有効なのだとのこと。
まとめ
地域社会圏主義は、専有部分を小さく共有部分を大きくすることで、人と人とのつながりを創りだそうと試みる。
この試みは、幸福感の基準が物質的充足から人とのつながりに移行しつつある現代において、特に注目されるべき価値のあるものだ。
一方、この「理想郷」が実現し、良く機能するためには、
- 住民たちがその価値を理解して入居すること。
- 価値観の近い住民たちがつながりあえる工夫を施すこと。
この2点が重要になるのだと思われる。
ぼく個人の感想からいっても、安く住めて、かつ価値観の合う人たちと生活空間を共有できるのならぜひ住んでみたいと思う。