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同じ音なのに、日本の学校ではなぜか区別して教わる英語の発音2ペアについて解説する

If everybody thought before they spoke,... | Flickr

日本の学校では慣習的に、または先生が実情を知らないために「違う音だ」と教えているが、多くのアメリカ人が全く同じ発音をする母音が2つ(2ペア)ある。

この記事では、その2ペアについて具体例を挙げながら解説する。

 

 

/ɑ/と/ɔ:/

一つ目は、/ɑ/と/ɔ:/のペア。

発音記号では分かりにくい人も多いと思うので、それぞれの発音を含む単語を以下に挙げた。単語はほとんどキクタンEntryから収集し、そこに書かれていた発音記号のとおりに分類した。

 

/ɑ/ words

box, hot, not, lot, got, stop, rock, want, shop, job, clock, top, wash, God, bomb, 

doctor, hospital, comic, problem, body, holiday, college, common, borrow, follow, rocket

/ɑ/は一般的に「アとオの中間音」と呼ばれる音。

 

/ɔ:/ words

soft, call, talk, walk, ball, small, tall, all, wall, hall, draw, law, strong, wrong, song, long, bought, brought, taught, 

often, office, abroad※,  belong

※abroadは、oaの綴りで/ɔ:/と読む例外的単語。road/roud/のように、oaはほとんどの語で/ou/と読まれる。例外はbroad, abroad, broadcastの三語のみ。

 

これらは、かつては誰もが2種類の異なる音として発音していた。しかし今では多くの地域で/ɔ:/の音は失われつつあり、多くのアメリカ人がこの2つの音を/ɑ/で発音している(厳密には、/ɑ/よりほんの少しだけ唇を丸めて、つまり/ɔ:/に寄せて発音する人が多い)

この現象(/ɑ/と/ɔ:/の合流)は、"cot-caught merger"と呼ばれている。mergerとは「合流」の意味。/ɑ/と/ɔ:/の2つの母音の区別がなくなってしまったせいで、"cot" /kɑt/ と"caught" /kɔ:t/ が全く同じ発音(同音異義語)になってしまったことから、こう呼ばれるようになった。

 

Dialect survey map, version 2

この地図は、青色が濃い地域ほど/ɑ/と/ɔ:/を同じに発音する人が多く、赤色が濃い地域ほど/ɑ/と/ɔ:/を区別して発音する人が多いことを表している。この地図を見るだけでも、この合流がかなり進行していることが分かるはずだ。

また、試しにカリフォルニアから来た22歳の友達にcotとcaughtを発音してもらったところ、実際に全く同じ発音だったし、

"I know some people pronounce them differently, like British people."

「違う発音をする人もいるみたいだよね、イギリス人とか」

と言われた。それくらい、この合流はアメリカでは一般的に進んでいるということだ。

 

こうした実情を踏まえると、/ɑ/と/ɔ:/を日本人の学生に区別して教えるのは無用だ。ネイティブスピーカーの多くが同じ発音をしているというのに、この違いに労力を割いて一生懸命練習させるのは愚かなことだ。

 

 

/ʌ/と/ə/

二つ目は、/ʌ/と/ə/のペア。同じように、この発音を含む単語を下に示した。

 

/ʌ/ words

cut, run, fun, come, lunch, cup, club, bus, luck, dust, study

/ʌ/は、「日本語の『ア』よりやや暗い響きの音」などと習う。 

 

/ə/ words

question, restaurant, camera, banana, Christmas, beautiful, photograph

/ə/(シュワー、曖昧母音)は、「脱力して口をだらんとして出す音」などと習う。

 

この2つの音はふつうにしゃべっているときには全く同じ音なので、一つの音として練習して差し支えない。この2つの発音を、なんとか区別をひねり出して発音してしまっている人は/ʌ/か/ə/のどちらか、または両方がぎこちない発音になってしまっている可能性が高い。変な発音が定着してしまわないためにも、早めに正しく練習することをおすすめする。(「同じ発音なら、なぜ違う記号で書かれるのか」という疑問はもっともなので、この記事の一番下に補足として記した)

 

 

まとめ

shining books | Flickr

日本の英語教育界の闇は深く、これら2つのペアはかなり発展的な指導をしている先生や教材であっても、別の発音として教えてしまっているケースが多い。

たとえば本ブログでイチオシしている英語耳でも、これら2つのペアは別立てで書かれていて、この記事で書いたような内容は記されていない。

英語で書かれた教材、たとえばMastering the American Accentなどではこれがちゃんと書かれている。「英語は英語で」というとありきたりだけど、やはり積極的に英語で情報を取りに行った方が、学べる内容は遥かに深くて正確だ。

 


このページの発音記号は、全てこちらのサイトを活用して書かせていただいた。単語を入力すると発音記号を出力してくれるサイトで、非常に使いやすくありがたい。感謝の意を込めて紹介させていただきます。

 

補足:/ʌ/と/ə/に違う発音記号をあてている理由について

上の/ʌ/ wordsと/ə/ wordsのリストを見ても分かるように、/ʌ/はアクセントのある位置にしか現れない一方で、/ə/はアクセントの無い位置にしか現れない。音韻論ではこれを相補分布と呼んでいて、こういう分布をする2つの音は同じ音(音素)であると考える。

ではなぜこの2つの音に違う記号が割り当てられているかというと、/ə/はその音節をあえて強調して読む場合、別の音になる可能性があるからだ。たとえば、photographをあえて音節ごとにぶつ切りに区切って読んだ場合、/foutəgræf/ではなくて、/foutougræf/と発音する人がいる(しない人もいる)。一方、study /stʌdi/はゆっくり読んでも/stʌdi/のままで、それ以外になりようがない。こうした違いを表すために、2つの記号が用意されているのだ。

また、/ə/は(アクセントが無いことが理由とも言えるが)比較的音の許容範囲が広いというのも/ʌ/とは異なる特徴だ。